ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
ほんの数秒が何時間も感じられる沈黙の後に、遼さんがゆっくりと言葉を紡いだ。
「彼女でいい? 俺は梓にウエディングドレスを着させてあげるって言ったんだけど?」
「それって……」
遼さんの言わんとすることが伝わって、瞳に涙が集まってきた。
身体が小刻みに震える。
「何? 感動しちゃった? ちゃんとした言葉は今晩言ってあげるから、泣くのはその時にしたら? ランチ食べに行くのに、泣き顔はどうかと思うよ」
泣かせるようなこと言ったのは遼さんなのに、惚けて笑うなんてヒドい。
でも絡めている腕からは、温かい気持ちが伝わってくるから許してあげようかな。
急いでバッグからハンカチを取り出すと、今にも溢れ出しそうな涙を押さえた。
「美味しいパスタを食べて、店の開店時間いっぱいまで楽しもう」
そう言って私を引っ張るように歩き出した。
私は遼さんの腕にしがみつくようについて行く。
さっきまでと同じ街を歩いているのに、まるで違う街を歩いているような不思議な気分だ。
遼さんの足取りも軽そうで、それさえも私の遼さんへの気持ちを高めてしまう。
昨晩は好きと言ってしまい、数分前に彼女にして下さいなんて……。
後先を考えない行動に自分でも可笑しくなって、思わず「ははっ」と笑みが零れた。
「いいね、梓の笑顔。さっきの、嬉しくて出ちゃった涙を溜めてる顔も捨てがたいけど」
「恥ずかしいこと言わないで……」
「今晩、もう一回あの顔を見せて」
耳元でそっと囁くと、私の胸は恥ずかしながらも期待に高鳴り、鼓動が速くなっていった。