ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「梓、大丈夫か?」
「う、うん。すごい音がして、ちょっとびっくりしただけ」
驚いた拍子に尻餅をつき地面にしゃがみ込んでいた身体を、遼さんが立ち上がらせてくれ服を払ってくれる。
「すみませんでしたっ」
お抱え運転手だろう。白い手袋をつけた私と同じ年令くらいの男性が、血相を変えて運転席から降りてきた。
「こんな人の多い道で、今のスピードじゃ危険だろうっ。気をつけてくれっ」
遼さんの怒った姿、初めて見た。遼さんでも怒るんだ。ちょっと意外。
でもこんな状況なのにそんな貴重な姿が見れて、ちょっと嬉しいかも……。
緩んでしまいそうになる顔を必死に堪えていると、後ろの席のドアがゆっくりと開いた。
「おいっ、遼じゃないか」
突然掛けられた声に、二人同時に振り向く。
そこには30代半ばと思われる、端正な顔立ちの男性が立っていた。
「兄貴……」
えっ? 兄貴?
遼さんが兄貴って呼ぶということは……
「遼さんのお兄さんっ!?」
慌てて身だしなみを整え姿勢を正すと、遼さんの横にピシっと立つ。
それにしても遼さんのお兄さんって、何もの?
こんなお高い車にお抱え運転手付で乗ってるし、着ているスーツも超が付くほどの有名ブランドのものに違いない。
きっちり整えられた髪に、洗練された靴。
どこをどう見たって、超一流企業にお勤めしているお偉いさんって感じなんだけど。