ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「こんなところで何してる? それに、その女はなんだ?」
その女? それって私のこと? 何だか随分な言い方じゃない?
少しイラッとして愛想よくしていた顔を真顔に戻すと、遼さんを見た。
「遼……さん?」
口を固く閉ざしたまま前を見据え、まるで会いたくなかった人にでも会ったかのように苦い顔をしていた。
お兄さんなのに、何で?
いつまでたっても口を開かない遼さんに業を煮やしたのか、なぜか冷たいものを感じる目を私に向けた。
「君は何だ?」
な、何だと言われても困る。
こういう時は名乗ればいいのかしら……。
「春原 梓と申します」
「名前なんてどうでもいいっ。こいつとどういう関係なんだ?」
「か、関係と言われましても……」
冷ややかな視線に耐えられなくなって俯くと、緊張して強張っていた肩をふわっと温かい腕に抱かれた。
「この人は……俺の大切な人だ。結婚しようと思ってる」
「何? 結婚?」
「近いうちに挨拶に行くよ。親父にそう伝えておいてくれ」
「お前……」
「約束は一ヶ月だっただろう。お前たちに何も言われる筋合いはないっ!! 梓、行くぞ」
お兄さんの顔を見ずにそう言い放つと、私の身体を強引に押し歩き出した。