ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

地下鉄の中、店まで歩いて行く道。
私たちは一言も言葉を交わすことなく、店に到着した。

「ただいま」

裏の通用口から中に入ると、開店準備をしていた雅哉くんに声を掛ける。
遼さんは何も言わず三階へと上がっていってしまった。

「あれ? 先輩と何かあった?」

「あったと言えばあったし、無かったと言えば無かったし……」

「何それ?」

分けわかんないと失笑する雅哉くん。
何て説明していいものか……。雅哉くんの顔をじっと見つめ考えていると、ふとあることが頭の中を過ぎる。

そう言えば雅哉くんって、遼さんの実家の近所に住んでる幼馴染だったよね?
だったら、お兄さんとの事とか何か知ってるかもしれない。

「ねぇねぇ雅哉くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「何? 先輩関係のこと?」

「うん。雅哉くんは遼さんのお兄さんのこと知ってる?」

「あぁ、暁(あきら)兄のこと? そりゃ知ってるけど……」

「じゃあ……」

遼さんにバレない場所へと移動すると、さっきあったことを掻い摘んで話す。
すると雅哉くんは、頭を掻きながら困ったような顔をした。

「先輩が暁兄と仲が良くないのは本当。いろいろあってね。でも、その辺の詳しい話は俺からは話せない。先輩に直接聞いてよ」

「それが出来ないから、雅哉くんに聞いたんじゃない……」

はぁ~と溜め息をつくと、三階を見上げた。






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