ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
窓から外を眺めていると、見慣れた街並みが見えてきた。もう家も近い。
「すみません。この辺りで停めてもらっていいですか?」
「ですが、社長には家の前までと言われていますので……」
そうは言われても、さすがに家の前までは気が引ける。
「少し歩きたい気分なので、本当にこの辺でお願いします」
そう言って頭を下げると、私の気持ちを察してくれたのか、スピードを緩め車を路肩に停めた。
「本当にここでいいんですか?」
「はい、わざわざ送っていただき、ありがとうございました」
挨拶は丁寧に、でも彼の顔を見ることもなく車から降りると、急いでその場を離れた。
一つ目の路地を曲がり車から見えない場所まで来ると足を止める。猛ダッシュで走ったせいでハァハァと乱れた息を、大きく深呼吸しながら整える。
呼吸が少し治まると、ゆっくり歩き出した。
家まで向う途中小さくお腹が鳴り、まだ晩ご飯を食べてなかったことに気づく。
こんな時でもお腹は空くんだ……。
自分に呆れながらも、通り道のコンビニに寄った。
パスタにサンドイッチ、惣菜パンにスナック菓子。プリン、アイスクリーム、炭酸飲料───
到底一人では食べきれないほどの食料を買い込むと、店を出た。
「どんだけ食べるのよ」
袋の重さに苦笑する。
よく立ち寄るコンビニ、よく顔を合わせる店員さんだっただけに、大食いと思われたか気になったけれど、買ってしまったものはしょうがない。
それに今は衝動的に動いていないと、おかしくなってしまいそうな自分がいた。