ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
早く家で一人になりたくて、歩く速度を速める。
玄関を開け部屋に入るとコンビニの袋をテーブルの上に置き、ベッドに横たわった。
両腕を目の上に重ねるように置く。
遼さんのことは考えない……そう思っていたのに、浮かんでくるのは遼さんの顔ばかりだった。
私に向けてくれたあの笑顔は、全部ウソだったんだろうか?
やきもちを妬いて私が帰ろうとした時の、真剣な顔は?
好きだって告白した時の、嬉しそうな顔も?
どれもこれも、全部私を騙すためのお芝居だったって言うのっ!!
大切だと言ってくれた言葉。
ウエディングドレスを着せたいと言って、私を翻弄させる仕草。
あの時の、王子様がするようなキスが全部お芝居だったなんて……
やっぱり、どうしても信じられないよ……。
でも、遼さんのお兄さんは、遼の我が儘だと、私を騙してたんだと言う。
一ヶ月というタイミングと、何も話してくれない遼さんが、私の心を迷わせる。
それに──
『女癖が悪くて、何人かの女を孕ませた』
あの遼さんに限って、そんな事あるはずがないっ。
でも、これが事実だとしたら……。
大きく頭を振った。
こんなことを考えてしまう自分が、嫌な人間に思えてしかたがない。
どうしてあの時、お兄さんにそう言われた時、心の中で思ったことを言い返すことが出来なかったんだろう。
お兄さんの言葉を信じてしまったかのように頷き、逃げるように帰って来てしまったんだろう……。
今さら後悔しても遅いのに……。
今、いったい自分がどうしたいのか。
自分で自分が、分からなくなってしまった。