ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

その時、玄関のドアが開く音がして、真規子が入ってきた。

「梓っ!! 目が覚めたんだね。で、枝里は何怒ってんの?」

「だって、梓ったらさ……」

私を軽く睨み文句たらたら説明すると、真規子が溜め息混じりに話しだした。

「まぁ枝里の言いたいことは分かるけど、まだ目が覚めたばかりだし。梓、勝手に悪いけど、知り合いの先生に来てもらって診察してもらったから。特に異常ないって。でも、一度病院に来てほしいって言ってたよ」

「そっか、ありがと。でも大丈夫だよ。ちょっと苦しくなっただけだから」

出来れば病院には行きたくない。
あの独特な匂い、ちょっと苦手だったりする。

「電話何回かけても出ないから心配して来てみれば、玄関のカギは開けっ放し、食べ物は散らかしっぱなし、挙句の果てにあんたは意識なくて倒れてるし。もうビックリだよ」

枝里が大袈裟に驚いてみせた。

「それはご迷惑をお掛けしました。二人とも、ありがとう」

ベッドの上で頭を下げた。

「遼さんも心配してた。後で連絡だけ入れておくよ」

遼さんの名前が出てきて、身体が強張る。
会いたいのに今は会いたくない……。
会って何を話したらいいのか分からない。
口を開けば、彼を責めてしまいそうで怖かった。
そんなことをしてしまったら、私たちの関係は終わってしまいそうで……。
って、もう終わってしまったようなものか。
何だか滑稽な話で笑ってしまう。

「この子は何笑ってんだか。昨日の話、詳しく話してよ」

「うん……」

真規子が淹れてくれたお茶を一口飲むと、昨日あったことを全部話した。





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