ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「なんなのよっ!」
枕を玄関に向かって投げ捨てると、布団の中に潜り込んだ。
枝里はいっつもそうだっ!
こっちの事情なんてお構いなしに言いたいことだけ言って、私の気持ちを翻弄させる。
私、何か間違ったことでも言った?
頭冷やせって、どういうことよっ!!
「こっちこそ、怒ってばかりの枝里なんていらないわよっ!!」
いきなり大声を出したからか、頭の痛みが酷くなってきた。
はぁ……。
少し頭を冷やしたほうが良さそうだ。
べ、別に、枝里に言われたから冷やすわけじゃないんだからねっ!
自分で自分で言い訳すると、ゆっくり目を瞑り少し眠ることにした。
少しだけのつもりが、目が覚めるともう日が暮れかかっていた。
「会社に連絡しないといけなかったんだ」
枝里が簡単な事情だけは連絡したくれたらしいが、しばらく休むなら電話するようにと言われていた。
身体はもう何ともない。会社に行こうと思えば行ける。
けれど今は、誰にも会いたくないし話したくない。
「有給、使っちゃおうかなぁ」
スマホを手に取るとバイブにしていて気づかなかったが、遼さんから何度も電話が掛かっていた。
きっと枝里から連絡を受けて、電話してきてくれたんだろう。枝里は私の具合以外に、何かを話したんだろうか……。
遼さんへの発信ボタンに指を置きそうになる。しかし寸前でその指を止めた。