ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
その後カフェに入ると、「公衆の面前で、ああいうことは止めて」と注意を受ける。
公衆の面前でなければ、いつでもいいのか?
それはそれで、有り難い。
これからは遠慮せず、キスが出来ると言うもんだ。
それに……。
「梓の慌てふためく可愛い顔を、世の男性に見せるのはもったいなからな」
そう意地悪く言うと、派手に溜め息をつかれてしまった。
ちょっと苛めすぎたか……。
注文したカフェ・ラテを飲んでいると、物思いにふけながら窓の外を眺める梓が気になる。
最初はにこやかに微笑んでいた顔が、だんだんと曇っていく。
「どうした?」
俺に目を向けた彼女が、何かを聞きたそうに口を動かそうとして止めた。
そして目を伏せたかと思うと、もう一度俺を見て笑う。
「ううん、何でもない」
その笑顔は、俺が好きな笑顔ではない。
最近良く見る作り笑顔に、切なくなったきた。
「梓の悪い癖」
「えっ?」
梓が驚いた顔を見せる。
「ひとりで考えて、ひとりで落ち込む」
何でもないはずがない。そんなことぐらい、俺にだって分かる。
それを素直に言えないことだって……。
「まぁ、俺が悪いんだよな」
お試しで付き合おうなんて言っておいて、梓の気持ちを身体を困惑させているんだから……。
俺の言葉を聞いてキョトンとしている梓を、急に抱きしめたくなった。でもここで抱くわけにもいかず、代わりに手を伸ばして頭をくしゃくしゃっと撫でた。