ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
そのことを彼女に直接伝え、後ろから抱きしめた。
肩に顎を乗せると、髪から香る彼女の匂いがが俺の鼻を掠め酔わせる。ここが外だということも忘れ、指で梓の鎖骨をなぞった。
梓の身体が震え強張った。
「からかわないで……」
恥ずかしそうに言う梓が可愛くて、本心が出てしまった。
「梓にこのウエディングドレス、着せたい」
俺のこの言葉を、梓はどんな気持ちで聞いているのだろう。
伝わってくる鼓動や照れた感じから、嫌がられてはいないと思うけど……。
近い将来、ウエディングドレスを着た梓の隣には、俺が立っていられるよう努力しないとな。
しかしこの後、梓が言った一言に俺は動揺してしまう。
「そ、そういうことは、本当の彼女に言わないと……」
そうだよな。梓にしてみたら、俺達の関係は“おためし”、契約の恋人同士なんだ。
でも俺のことを好きって言ってくれたし、おためしを超えた感情が芽生えてきているとは思うんだけど……。
俺も大切な彼女だって伝えてるのに、気づかないのかなぁ……。
梓って、結構鈍感だよな。
これはもう何回でも言って、俺の気持ちを伝えるしかないか。
「ねぇ梓、さっき言ったこと忘れた? キミは俺の大切な彼女でしょ?」
「だってそれは……」
何かを言いかけて、口を噤む。やっぱり契約が引っかかっているみたいだ。
でもしばらく何かを考えているように俯いたかと思うと次の瞬間、憑き物が落ちたように身体の力がゆるりと抜け、梓の胸の前で組んでいる俺の手に自分の手を重ねてきた。