ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

予約していたイタリアンレストランは、相変わらずの賑わい。普通に来ていたら、1時間以上は待たされたことだろう。
忙しいのにわざわざ顔を見せに来てくれたオーナーと挨拶を交わすと、次々に出てくる旨い料理に舌鼓を打つ。
目の前には美味しそうにパスタを食べている梓。
梓の幸せそうな笑顔と数々の料理に、身も心も満足な気持ちになると、店を後にした。

午後は買い物を楽しみ、梓との幸せな時間を過ごす。
しかしそういった時間はあっという間に過ぎてしまうもので、腕時計を見れば店に戻る時間になっていた。
もう少し梓とぶらぶらしていたいところだが、今日は土曜日。さすがに準備を、雅哉たちだけに任せるのは大変だろう。
仕方なく駅に向かい歩き始めると、一台の車が猛スピードで路地に入ってきて、俺達の前で急停車した。

「危ないっ!!」

前を歩いていた梓が後ろに倒れそうになるのを抱きとめる。
ったく、どんな運転してんだっ!! 一言文句言ってやらないと、気が済まない。
慌てて降りてきた運転手を捕まえると、一気に捲し立てた。
すると後部座席のドアが開き、その人物が俺の名を呼んだ。

「おいっ、遼じゃないか」 

その聞き覚えのある声に振り向くと、愕然とした。

「兄貴……」

俺が兄貴と呼んだことで、梓も別の意味で驚き声を上げる。
まったく、どうしてこんな時に会うんだよ。勘弁してくれ……。
顔を背けシカトを決め込むと、苛立ちを隠せない兄貴が口火を切った。


< 182 / 312 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop