ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「何コソコソやってんの? 普通に入って来ればいいだろ」
除くようにドアを開ける梓に、普段と同じような口調で話しかけた、
少し怪訝そうな顔をする梓。
そりゃそうだよな。さっきまで何も話さず俯きがちだった男が、いきなり態度が変わってるんだもんな。
自分でも、何がしたいのか、何でこんなことをしているのか分からなくなってしまっていた。
しかも「遼さん、あのね……」と何かを話しだした梓の言葉を遮り、「今日は帰ったほうがいい」と梓を遠ざけるようなことを言ってしまった。
今は何を聞かれても、何も答えることが出来ない。
逃げていることは分かっている。
男として情けないことも……。
梓の顔が、悲しそうに歪んだ。
「送れなくて、ごめん……」
最後にそう言って梓の頭を撫でると、そのまま彼女の横を通り越し部屋を出た。
しばらくして階段を足早に降りていく音が響く。そのまま外に出る扉が、激しく音を立てた。
「遼兄、今の梓さんだよね? いいの?」
俺が上にいる間に何か話したのか、雅哉が梓を気にしているみたいだった。
「お前、呼び方が違ってる。ここ職場。いつもみたいに呼べ」
「やだね。梓さんと何があったんだよっ」
やけに突っかかってくるじゃないか。
あぁそういえばこいつ、梓びいきだったよな。
「お前には関係ない」
「梓さんに暁兄のこと聞かれた。詳しいことは話せない、遼兄から聞いてって言ったんだけど、ちゃんと話してあげた?」
そうか。だからさっき……。
俺はそんな梓から逃げたんだ。最低だな……。