ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
その夜、店に梓が来ることはなく、ただ忙しく時間は過ぎていった。
少しの時間を見つけては彼女に何度か電話をしたけど、一度も出ることはなく……。
これは完全に拒否られてるな。こんだけ出てもらえないと、かなりへこむ。
とは言え、自分で蒔いた種だしな……。
雅哉たちも帰り、店の明かりを消すと三階へと上がる。
部屋の電気も付けずに中に入ると、そのまま真っすぐベッドに向かい倒れ込んだ。
梓に会えないだけで、こんなにも身体と心にダメージを受けるとは……。
あの時ちゃんと話をしていればよかったと、今更言っても遅いことばかり考えてしまう。
どれもこれも、俺が中途半端にしていたせいで起こったことだよな。
いくらあの家を出たからといって、小野瀬じゃなくなるわけがないのに……。
許嫁の件だってそうだ───
西村 あずみ……。西村製作所の一人娘。
子供の頃からよく知っている。
4歳年下のあずみとは、兄、妹のみたいな関係だと思っていた。
しかし高校生の時に、彼女は許嫁だと知らされる。
正直、驚いた。今時“許嫁”という言葉で、人の人生を縛り付けるなんてナンセンスだ。
俺には俺の、彼女には彼女の人生があるわけで……。
でも会社を継ぐためには必要なことなのかもしれないと、その時は妙に納得したのを覚えている。
まだ当分先のことだしとそのことをすっかり忘れていた大学2年生の春、高1になったあずみから告白された。
『許嫁でなかったとしても、遼ちゃんのこと好きになってた……』
あずみにそう言われて、戸惑った。会社の後継者である俺が今ここで断るのはどうかと……。
でも妹としか思ってないなかったおれは、正直にその気持ちを彼女に伝えた。
その後、俺の後継者の話も無くなり、許嫁の件も終わったものだと思っていたのに……。