ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
結局、梓のところへ行こうと決心したのは火曜日になってからだった。
その日は朝から仕入に出かけ、最後にいつも行く酒屋に寄ると、そこから梓の家が案外近いということに気づいた。
車の時計を見ると、12時を過ぎたところ。
梓は仕事でいないだろうけど、帰りに通ってみようと車を走らせた。
梓が住むマンションが見えてくる。出入り口あたりに、女性が二人立っていた。
「枝里ちゃん?」
何となくそんな気がして口から出た言葉は、マンションの真横まで来て確信に変わる。
車を道の脇に止め降りると、枝里ちゃんも俺に気づいた。
「遼さん……」
その瞬間、枝里ちゃんの顔がまるで会いたくなかった人に会ってしまったように歪み、それが見る見るうちに怒りの顔に変わっていった。
「枝里ちゃん?」
「何しに来たんですか? 梓をあんな状態にしておいて……。私、遼さんのこと見損ないましたっ!」
「あんな状態にって……。梓に何かあったのか?」
急に心臓の鼓動が速くなる。嫌な予感が、脳裏を駆け巡った。
「何かあったのか? あったわよっ!! 何回連絡しても音沙汰が無いから心配して来てみれば、玄関の鍵は開けっ放し、部屋の中は食べ物で荒れ放題。その中で梓は、意識を無くして倒れてたのよっ!!」
枝里ちゃんは凄い剣幕で食って掛かり、俺の胸元をグッと掴んだ。
その顔は、怒りと悲しみが混じったような顔をしていた。
「意識を無くしたって……。今、梓はっ? 大丈夫なのか?」
今すぐにでも掛けだして梓に会いに行きたい衝動にかられながらも、それがままならない状態に、胸が苦しくなってきた。
俺は何をしていたんだろう。
梓がそんな状態になるまで、気がつかないなんて……。