ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
歯を食いしばり、自分自身への怒りに震えていると、枝里ちゃんが胸元を掴んでいる手の力を緩めた。
「お医者さんに診察してもらって、さっき目を覚ましました」
「そうか、良かった……」
意識を取り戻したことが分かると、幾分か身体の緊張が解かれた。
胸元の手を下ろすと、枝里ちゃんが淡々と話しだす。
「昨晩、遼さんのお兄さんに酷いこと言われたみたいです。手切れ金まで渡されたって。ねぇ遼さん。土曜日お兄さんと会った時、何で梓に何も言ってあげなかったんですか? そりゃね、誰にだって秘密にしたい事の一つや二つあると思います。だけどそれって、梓を悲しませたり苦しめたりしてまで隠さなきゃいけないことですか? 遼さんにとって梓って、何なのよっ!!」
最初こそ怒りを押さえた口調だった彼女も、最後には大声で捲し立てた。
その目には、涙が溜まっている。
「枝里ちゃん、ごめん」
自分の不甲斐なさと枝里ちゃんに対しての申し訳なさから、大きく頭を下げた。
「私に謝られても……」
不服そうにそう呟く枝里ちゃんを、隣に立っていた女性が宥めた。
「枝里、もうそのくらいにしときなよ。えっと……、遼さんでしたよね?」
「は、はい。小野瀬遼と言います」
「初めまして。私も枝里と同じく、梓とは高校時代からの親友で、相田真規子といいます。梓から今回の話、いろいろ聞かせてもらいました。その話の途中でも、何回か調子悪くなって……。梓、かなり情緒不安定です」
情緒不安定───
俺の情けない態度が梓を苦しめていたかと思うと、居ても立ってもいられなくなってしまった。
今すぐにでも、梓に会いたい。
しかし、相田さんから次に発しられた言葉は、俺の気持ちとは正反対のものだった。