ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「遼さん。梓にはしばらく会わないでもらえませんか?」
「えっ?」
「今まで梓に会いに来なかったのは、遼さん自身の気持ちがちゃんと定まってないからじゃないですか? そんな状態で梓に会って、何を言うつもり? あの子を余計、混乱させるだけだと思うんですけど」
彼女の言葉には、反論を許さない強さがあった。そしてその的を射た言葉に、反論どころか言葉をなくし、立ち尽くしてしまった。
「偉そうなこと言って、すみません。でも遼さんには、今やらないといけないことがあるんじゃありません? そこをクリアな状態にしてから、梓に会いに来てやって下さい。梓のことは大丈夫。私達が面倒みますから、安心していて下さい。何かあったら連絡します」
そう言って頭を下げると、マンションの中へと入っていく。
枝里ちゃんも後をついて入っていこうとして、立ち止まった。クルッと振り返ると、もう一度俺の目の前まで来た。
「遼さん……、さっきは言い過ぎた。ごめんなさい。でも私、遼さんにお願いしたよね? あの子を幸せにしてあげてって……」
そうだった。
4年前に辛い恋をして、もう二度と恋愛なんてしないと決めた梓の頑なな心を溶かしてあげてと……。
梓を落とすために“罠”をかける。自分で言った“おためし”の恋愛に囚われてしまって、元々俺の中にあった純粋に梓が好きになっていた気持ちを忘れてしまっていたみたいだ。
「枝里ちゃん、ありがとう。もう大丈夫だ」
俺の中でくすぶっていた気持ちが、一気に消え果てた。身体中に今まで失っていた力が、漲ってくるのを感じる。
枝里ちゃんが中に入っていくのを見送ると車に乗り込み、携帯を取り出した。