ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
兄貴にどうやって連絡を取るか……。
おれはあいつの携帯番号を知らない。今まで、その必要性がなかったから。
でも今は、早急に連絡を取らないといけない。
仕方なく、ここ数年疎遠になっていた実家へと電話を掛けた。
「もしもし?」
意外にもお手伝いではなく、母さん本人が電話に出て戸惑う。
「俺だけど……」
たったそれだけの言葉で、母さんの声が一転した。
「遼? 遼なのね? 元気にしてた? ちゃんとご飯は食べてる?」
次から次へと言葉が出てくる。
おいおい。俺はもう子供じゃないんだぞ。心の中で呟く。
嬉しそうな、でも泣いているような声を聞き、今まで母さんを放っておいたことに胸が痛んだ。
「あぁ、ちゃんと食ってるよ。母さんも元気?」
とても元気よと明るい声が返ってきて、少しだけ胸の痛みが弱まった。
「母さん、ごめん。今日は聞きたいことがあって電話したんだ。兄貴と連絡が取りたい。携帯番号を教えてくれないか?」
「何かあったの?」
理由はまた今度話すと言うと、少し不満そうに兄貴の携帯番号を教えてくれた。
「でも暁はお父さんと一緒に、今は海外に行ってるわよ。週末はこっちに帰って来るけれど……」
「今週末か……。分かった、土曜日にそっちに行くよ」
「そうなの!? 遼に会えるなんて、お母さん嬉しいわ」
楽しい話をしに行くんじゃないんだけどな……ごめん。口には出さず母さんに詫びると、じゃあと電話を切った。