ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
海外に出張中だと言っていたが、兄貴の携帯へ電話を掛ける。
「はい」
案外早く出た兄貴の声を聞くと、怒りが込み上げてきた。名前も名乗らず、いきなり声を荒げた。
「なぁ兄貴、梓に何を言った?」
「なんだ遼か。梓? あぁ、あの女……。お前の代わりに、関係を終わらせてやっておいたよ」
「余計なことするなよっ!! 俺に構うなって言っただろうっ!!」
「それは無理だな。お前は小野瀬の一員だ」
何でもなかったかのように淡々と話す口調に、苛立ちを覚える。
今の兄貴にとって俺の都合なんて、全く眼中に無いんだろう。
「勝手なこと言うなよ……。お前に話しがある。週末実家に行くから待ってろ」
それだけ言うと、何か言いかけた兄貴に構わず電話の切ボタンを強く押した。
親父はこのことを知っているのだろうか。
それとも兄貴の独断なのか……。
どちらにしろ、週末が勝負だ。
あっちにどんな事情があろうと、俺は小野瀬には戻らない。あずみとも結婚はしない。そのことをハッキリと伝えなければ。
あの兄貴相手だ。きっと一筋縄では行かないだろう。
でも今回は、絶対に負ける訳にはいかない。
梓のためにも……。
───早く梓に会いたい───
その思いを胸に、俺は車のアクセルを強く踏み込んだ。