ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
どこに座ろうか迷っている枝里ちゃんに、いつもの席に座るよう声をかけると、カウンターに立った。
「マスター、今日はすいません。変なお願いしちゃって」
「何も変じゃないでしょ。枝里ちゃんの誕生日を一緒に祝えて、俺らも嬉しいよ」
これは、紛れも無い本心だ。誰かを祝えるということは、心を豊かにしてくれる。それが、彼女に関わることなら、なおさらに……。
ホッとしたように笑う枝里ちゃんが、徐にバッグからスマホを取り出し、大きなため息をついた。
「どうかした?」
「え? ううん。梓、今日は定時で上がれるかなぁ~と思って」
「何? 梓ちゃん、仕事忙しいの?」
「違う違う。そうじゃなくてね……」
スマホをバッグにしまうと、話しを続けた。
「梓、可愛いでしょ。会社の男連中に、しつこく誘われてるみたいなんだ……」
「へ、へぇ……。そうなんだ」
男にしつこく誘われてる? 聞き捨てならない言葉だ。
「どんなに頑張ったって、無理なのになぁ」
そう言い終えると、また大きくため息をついた。
頑張ったって無理? それって、どういうことだ? 彼氏が出来たってことなのか?
いやっ。まだそうと決まったわけじゃないだろう。ここはちゃんと確認しておかなければ……。
「どうして頑張ったって無理なの?」
「う、うん……。マスターだから話しちゃってもいいかなぁ~」
一瞬躊躇したものの、話しを聞かせてくれた。
そしてこの後、四年前、彼女の身に起こった事実を知ることとなる。