ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

それから、どのくらいの時間が経ったのだろう……。
呆然と立ち尽くしている俺に気づいた枝里ちゃんが、声を掛けてきた。

「マスター!! ちょっと、どうしちゃったの?」

「えっ? あぁ……。あははははっ。ごめん。何でもない」

いい年して、笑ってごまかしてしまった。情けない……。
その場に居難くなり、何か飲み物を作ろうと向きを変えようとした。しかし、その腕をグッと掴まれてしまう。

「ねぇ、マスター? もしかして梓のこと、好き……だったりする?」

「な、何を急に言い出すんだよ」

スゴい洞察力。枝里ちゃん、侮れない……。
これはどうも、ごまかしきれそうもないな。
照れ隠しで、頭をポリポリと掻いた。

「やっぱり、そうなんだ。でもね、さっき話した通り、梓を落とすのは難しいと思うなぁ~」

そう言うと、またスマホを手にする。それを操作しながら話しを続けた。

「私としては、梓にもう一度恋をさせてあげたいんだよね。ずっと一人なんて、寂しいと思わない?」

言葉を発せず、頷いて見せる。

「でしょ! マスター。梓のこと好きなら、あの子を幸せにしてあげて」

「幸せに……」

「そう。頑なな梓の心を解かしてあげて。私も協力するから」

少しおどけた表情を見せ、ウインクする。
彼女の四年前の話を聞いたときは、正直、これは一筋縄ではいかないな……と思ったりもしたが、これはある意味グッドタイミングなのかもしれない。

-----“甘く蕩ける罠”-----

早速この後、仕掛けることにしよう。

< 21 / 312 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop