ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
さっきまで西村の家に行っていたんだ。仕事の話もあったんだか、あずみさんとの婚約の件も話してきた」
背中にある遼さんの手が止まった。
許嫁と言うくらいだ。ずっと前から決まっていたことなんだろう。それを今更なかったことに出来るんだろうか。
あずみさんも、遼さんのことが本当に好きみたいだったし……。
「こういった世界だと、会社の事情で好きでもない相手と結婚することはよくある話だ。現にここにいる暁も、我が社の関連会社の一人娘、百合さんと結婚した」
「あら嫌だ、お父様。わたくしは暁さんが好きで結婚したんですのよ。会社のためなんかじゃありませんわ」
「ね? 暁さん?」と急に振られて、飲んでいたお茶を吹きそうになるお兄さん。
さすがは奥さん。一枚上手だ。
でも、お父さんがそんなことを言うってことは……。
やっぱり遼さんも、あずささんと結婚しないといけないのだろうか。
急に不安にかられ、心臓の鼓動が速まる。
「親父っ! でも俺は……」
「まぁ待て。私の話を、最後まで聞きなさい」
そう遼さんを制すと、遼さんは渋々ソファーに座り直した。
壁に掛けてあるレトロな時計の針の音が、やけに耳につく。
「そうか……。百合さんは、暁のことを好いていてくれたのか。結婚してもう5年以上経つのに子供を作らないから、無理やり結婚させてしまったのだと悔やんでいてね」
苦渋に満ちた顔をし、手には握りこぶしを握っていた。