ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

さっきまで西村の家に行っていたんだ。仕事の話もあったんだか、あずみさんとの婚約の件も話してきた」

背中にある遼さんの手が止まった。
許嫁と言うくらいだ。ずっと前から決まっていたことなんだろう。それを今更なかったことに出来るんだろうか。
あずみさんも、遼さんのことが本当に好きみたいだったし……。

「こういった世界だと、会社の事情で好きでもない相手と結婚することはよくある話だ。現にここにいる暁も、我が社の関連会社の一人娘、百合さんと結婚した」

「あら嫌だ、お父様。わたくしは暁さんが好きで結婚したんですのよ。会社のためなんかじゃありませんわ」

「ね? 暁さん?」と急に振られて、飲んでいたお茶を吹きそうになるお兄さん。
さすがは奥さん。一枚上手だ。
でも、お父さんがそんなことを言うってことは……。
やっぱり遼さんも、あずささんと結婚しないといけないのだろうか。
急に不安にかられ、心臓の鼓動が速まる。

「親父っ!  でも俺は……」

「まぁ待て。私の話を、最後まで聞きなさい」

そう遼さんを制すと、遼さんは渋々ソファーに座り直した。
壁に掛けてあるレトロな時計の針の音が、やけに耳につく。

「そうか……。百合さんは、暁のことを好いていてくれたのか。結婚してもう5年以上経つのに子供を作らないから、無理やり結婚させてしまったのだと悔やんでいてね」

苦渋に満ちた顔をし、手には握りこぶしを握っていた。 

< 222 / 312 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop