ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
お父さんがお兄さんの肩を優しく叩く。お父さんの顔も、嬉しそうだ。
遼さんが私の手を握ると、スッと立ち上がった。私も一緒に立ち上がる。
「兄貴、良かったな。百合さんもおめでとう。親父……」
「お前の言いたいことは分かっている。西村には婚約の件、きちんと断ってきた。私が頭を下げたんだからな。西村の奴も、面食らっていたぞ」
そう言って笑う顔は、やっぱり遼さんに似ていて温かかった。
「梓さん、遼をよろしくお願いします」
突然頭を下げられてしまい、今度は私が面食らってしまった。
「あ、あの……はいっ! こちらこそ、よろしくお願いいたします」
これでもかというほど頭を下げると百合さんが笑い出し、つられるように遼さんも笑った。
顔を上がればお父さんがお兄さんの腕を小突き、お前も笑えと言わんばかりの笑顔を見せていた。
「梓のおかげだ……」
遼さんがポツリと呟く。
言ってる意味が分からず遼さんを見つめると、「何でもない」と頭をポンっと撫でられた。
すると突然、扉が派手な音を立てて開く。
「遼っ! あぁ~まだいてくれたのね。お母さん、今日は用事があったのすっかり忘れてて。急いで帰って来たのよ。ほらっ、遼の好きな和菓子屋さんのお饅頭を、いっぱい買ってきたわよ」
お母さんの後ろに立っていたお手伝いさんらしき人が、遼さんにいっぱいのお饅頭を手渡す。
その量にちょっと困ったような顔を見せた遼さんも、すぐに笑顔に戻ると「ありがとう、母さん」と照れくさそうに言った。