ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

ふくよかな身体つきで、見るからに優しそうな女性。天真爛漫という言葉はこの人のためにあるような、そんな印象を与えるこの人が、遼さんのお母さん。
その人が、遼さんの後ろに控えていた私を見つけると、不思議そうな顔をして遼さんに尋ねた。

「遼、こちらの方はどなた?」

またも、緊張が私を襲う。
いくら優しそうな人とはいえ、自分の息子が女性を連れてくるのはあまり喜ばしいことじゃないだろう。
お父さんに気に入ってもらえたからといって、お母さんにも気に入られるとは限らない。
遼さんが私が見やすいように少しだけ身体を横に動かすと、私も遼さんの横に並ぶように一歩前に出た。

「母さん、紹介する。こちらは春原梓さん。俺はこの人と一緒になろうと思ってる」

遼さんの言葉を聞いて目を大きく見開くと、次の瞬間、ものすごい勢いでガバっと抱きつかれてしまった。

「遼のお嫁さんになる人なのね。こんな可愛くて綺麗な人なんて……。梓さんって言うの? あら嫌だ。あの子と一文字違いね。でも梓さんの方が、数倍、いえ、数百倍可愛いわぁ~」

大きな声で喋りながらギュウギュウと抱きしめられて、胸が苦しくなってきた。
この家の女性は、天然さんが多いらしい……。
遼さんをチラッと見て助けを求めたが、こればっかりは遼さんでもどうにもならないみたいだった。
諦めてされるがままになっていると、お父さんが助け舟を出してくれた。

「母さん。百合さんが身籠ったそうだ」

私の身体を揺さぶっていた力が弱まる。そしてゆっくり身体を離すと、今度は奥さんに向かって走り出した。
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