ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
土曜日の朝早起きすると、店に急ぐ。
雅哉たちに店を任せることに不安はないが、少しは手間を減らしてやりたい。
作っておいても問題ないソースや材料の下ごしらえを済ますと、3階へと戻る。
簡単に身支度を整えると、車のキーを持ち家を出た。
少し山間の開けた場所に実家はあった。
子供の頃は学校まで遠く辺鄙なところだと思っていたが、久しぶりに足を運ぶと静かでいい街だと実感する。
目に前に実家が見えてくると、アクセルを踏む足の力を緩めた。
正面玄関ではなく裏口に車を回すと、エンジンを止めた。
目を瞑り大きく深呼吸をすると、車から降りた。
「あら遼さん。こんな裏口じゃなくて、正面から入ってくださればよかったのに」
「百合さん、お久しぶり」
兄貴の奥さんの百合さんは、久しぶりにあった俺に屈託のない笑顔を見せた。
この人が、どうして兄貴と結婚したのか分からない。やっぱり会社が関係してるのか。
「裏口の方が荷物を運びやすいと思ってね。そこ、開けておいてくれる?」
「ええ、分かったわ。私ちょっと出るけど、昼過ぎには戻りますから。あ、それと、お父様もお出かけになってるわ。すぐ戻るって言ってみえたけど……。暁さんはリビングでお待ちかね」
それだけ早口で言うと車に乗り込み、手を振って行ってしまった。
「相変わらずだな」
百合さんの車を見送ると、裏口から中へと入る。
すぐにはリビングに行かず2階へと上がり、この家を出るまで俺の部屋だった扉のノブに手をかけた。