ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
久しぶりに入るその部屋は、少し埃っぽい空気を感じるものの、あの時のままだった。
大きな本棚には経営学を学ぶための本や参考書で埋め尽くされ、キャビネットにはその当時好きだった、戦闘機のプラモデルが綺麗に並べられていた。
「F16cファイティングファルコンか……」
一つを手に取ると、右から左へと飛んでいるように動かした。
幼い頃から飛行機が好きで、紙飛行機を作ってはこの部屋の窓から飛ばしていた。その数が尋常じゃなくて、よく母さんに叱られたっけなぁ。
大人になって紙飛行機作りからプラモデルを作るようになり、勉強の合間をぬっては航空機や軍用機の本を読みあさった。
ここを飛び出してからというもの、全く関わっていなかったというのに……。
「案外、覚えてるもんだな」
プラモデルを一つ一つ指差し、型式番号と愛称を唱えていく。
本を開き忘れてしまったものを調べ、時間も忘れて見入っていると、部屋の扉が勢い良く開いた。
「誰かいるのかっ!」
「わあぁぁーっ!!!」
戦闘機に没頭しすぎていて物音に気づいてなかった俺は、その大きな音にひどく驚き本を投げ飛ばし情けない声を出してしまった。
「なんて声出してるんだっ。お前、いつからここにいる?」
そう言われて壁の時計を見ると、ここに着いてからもう一時間以上経っていた。
「忘れた」
兄貴に正直に答える必要はない。素っ気なくそう答えると、兄貴が気に入らないような顔をした。