ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
自分から連絡を入れてここに来たのに、兄貴の顔を見ると一気にテンションが下がる。
のっそりと立ち上がり、本や戦闘機を片付ける。その動きに痺れを切らした兄貴が、声を荒げた。
「さっさと下りてこいっ! いつまで俺を待たせる気だっ!!」
よほど気分を害したのか、階段を下りる音がこの部屋まで響いてきた。
「帰りにするか」
部屋を後にすると、リビングへと急いだ。
ダイニングを抜けリビングに入ると、兄貴がソファーに深く腰掛け腕を組んで待っていた。
相変わらずの偉そうな態度に、イライラする。
「そこに座れっ」
言われた場所に腰を下ろすと、兄貴と対峙した。
「梓に何をした?」
「梓? ああ、あの女か。別に何もしてない。お前と別れてくれと、手切れ金を渡してやっただけだ。感謝されることはあっても、文句を言われる筋合いはない」
鼻でせせら笑いながら言う姿は、まるで悪魔のようだ。
きっと何を言っても無駄なんだろう。だけど黙っているわけにはいかない。
「手切れ金だと? 誰が頼んだっ!! 俺はどんなことがあっても、梓とは別れない。お前や親父に反対されようと、彼女と結婚する。だから俺に構うな。小野瀬と俺は、もうとっくに関係ないんだ」
「それはお前の言い分だろ。だが、こっちはそうはいかないんだよっ。お前には、あずみと結婚してもらう。おい、あずみ。入って来い」
あずみ? ここにいるって言うのか?
すると、隣の来客用応接室へと続く扉が、ギギッと音を立てて開いた。