ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
抱きしめていた腕の力が緩むと、梓が身体を離した。
いくら好きでも、やっぱり気になるよな。
少なからずショックを受けていると、梓が俺の好きな笑顔を見せて「今の遼さんが好きなんです」と、真っ直ぐな気持ちを兄貴に言い放った。
それでもその言葉に反撃でもするように、兄貴の攻撃は止まらない。
悔しそうに身体を震わせ立っている梓を、たまらなく抱きしめた。
人前だろうと構わない。
顔を近づけ額を合わせると、
「梓、愛してる……」
止まらない気持ちを伝え、頬にキスをした。
顔を真っ赤に染める梓が、愛おしくてしかたがない。
百合さんの喜ぶ姿が目に入る。
しかし、あずみは舌打ちをし、兄貴はまた怒鳴り声を上げた。
その度に、梓の身体がビクッと強張る。
大丈夫だと身体をさすれば、安心してように身を寄せてきた。
気を利かせ、奥さんがあずみさんを部屋から連れ出してくれると、部屋の空気が一層重たいものになる。
梓が時折ギュっと握り返してくれる手が、俺に力をくれる。
しかし話し合いの方は、どこまで行っても平行線の一途を辿ってばかりだった。
このままでは埒が明かない。
何と言われようと、力を貸すことは出来ない、小野瀬に戻るつもりはないと伝えると梓の手を引き、扉へと歩き出した。