ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

「───お前の大切なその女、壊してやろうか?」

「何?」

今なんて言った?
いくらなんでも、まさか兄貴の口からそんな言葉が出て来るとは思ってもみなかった。
振り返り兄貴の顔を見ると、面白可笑しそうに笑っていた。
身体の中から、怒りが沸々と湧き出てくるのが分かる。
今すぐにでも兄貴を殴りたい衝動に駆られ脚を踏み出したが、梓の身体の震えに気づきそれを止めた。
こんな細い身体で、梓は俺のために一緒に戦ってくれているんだと思うと、まずは梓を守り安心させることが先決だと、その身体を軽く抱き寄せた。
笑いながら「さっき言った言葉、忘れた?」と問えば、返す言葉はろれつが回っていない。きっと兄貴の“壊してやろうか?”という言葉が、梓を苦しめているんだろう。
その心を和らげるために、いつも梓が照れて嫌がる言葉「ほんとに梓は可愛いなぁ」と言えば、やっぱりいつもの答え「私、可愛くないし……」と返ってきた。

相変わらずだ……

俺は自然に梓の顎を掴むと、無意識のうちに唇を重ねた。
梓の激しい抵抗で我に返ったが、もう遅い。
重なった唇の甘さにここがどこだということも忘れて、口づけを止めるどころかもっと梓が欲しくなってしまった。
梓が息を吸うために口を少しだけ開けると、そこから舌を忍び込もせようとして……失敗した。
梓が手で制止し困ったような顔をしていた。
まぁ場所が場所なだけにしょうがないが、ちょっとだけ不満足で梓の可愛い額を小突いてやった。




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