ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「遼、久しぶりだな。お前がどんな暮らしをしているか気になっていたが、元気そうで何よりだ」
それは本心かよっ!
そう思ってんなら、もっと早く会いに来るべきじゃないのかっ!!
結局あの時と変わらない。
何の相談もなく兄貴を後継者に変えた時も、こんな風に心のない言葉で俺を切り捨てたんだ。
『悪いな、遼。会社の後継者は暁にする。お前はまだ若いんだから、何だって出来る。後継者にこだわることないだろう』
一瞬で、奈落の底に落とされた気分だった。
俺は親父が努力して今の規模にした会社を、俺の手で引き継ぎたかった。
その為に、死に物狂いで勉強したっていうのに……。
それがほんの些細なことで、その座を兄貴に奪われてしまった。
親父にあったのは、見栄やプライドだけ。
たったそれだけのことで、俺はお払い箱になってしまった。
それを今更、何もなかったみたいに、元気そうだなだと?
人をどこまでコケにすれば気が済むんだっ!!
また怒りが込み上げ親父を睨みつけていると、その目には最初ほどの威厳が無くなっていき、シワの増えた目尻に気持ちが揺れ動いてしまった。
その間も兄貴は、何かゴチャゴチャと文句を言っていたが、どの言葉も耳に入ってこない。
親父が兄貴を諭しその場が落ち着くと、俺も深呼吸して気持ちを落ち着けてから自分の気持ちを伝えた。