ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「梓のおかげだ……」
つい本音が、ポロリと口をついて出てしまう。
きっと今日、梓がここに来なかったら、今のこの状況は無かっただろう。
いまだに3人で怖い顔をしながら、終わりの見えない話しをしていたに違いない。
梓には、どんなに感謝してもし足りないな……
何のことだか分からない梓が、隣で俺のことを見つめている。
大丈夫、後で全部話してやる。そう後で……。
「何でもない」
そっと頭を撫でると、またいつもの笑顔を見せてくれた。
その後しばらくすると用事で出かけていた母さんも戻り、相変わらずの様子で俺を安心させた。
梓のこと紹介し百合さんの妊娠のことを聞くと、つても喜んで大はしゃぎ。
母さんも梓のことを気に入ってくれて良かった。
ものすごい力で梓を抱きしめたのには驚いたが、これも母さんの愛情表現のひとつ。梓には慣れてもらうしかなさそうだ。
そんな二人を微笑みながら見ている百合さんも、梓の良き理解者となってくれそうで心強い。
問題なのは兄貴だが、これも時間が解決してくれるだろう。
「───また梓と一緒に顔を出すよ」
親父の目をしっかりと見て伝える。
「ああ、そうしてくれ。いつでも遠慮なくこい。ここはお前の育った家だからな」
「…………」
その言葉を、ずっと待ってたのかもしれない。
親父の言葉が胸に残り、思わず言葉を失ってしまった。
俺は今日この日のことを、一生忘れないだろう。
8年間、ずっと意固地になって虚勢を張っていたのは、俺の方だったのかもしれない。
もっと早く気づいていたら……。
失った時間は取り戻すことは出来ない。
でもまたここから、新しい時間、人生を作っていこう。
これからは、梓も一緒に───