ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
遼さんが作ってくれた舌平目のムニエルにかぼちゃのポタージュ。雅哉くんが作ってくれたトマトのカクテルサラダ。それに買ってきたパンが温め直されて、テーブルの上にところ狭しと並んでいる。
それらを囲むように座ると、遼さんが私と麻衣ちゃんにカクテルを用意してくれた。
「わぁ、ファジー・ネーブル」
「正解。よく覚えてたね」
ピーチ・リキュールをオレンジジュースで割った、甘さと酸味がほどよく効いたやわらかな口当たりのカクテル“ファジー・ネーブル”
アルコール度も控えめで女性に好まれ、この店に来始めた頃よく飲んでいたのを思い出す。
カクテル・ピンに刺したチェリーとスライスオレンジが可愛く飾ってあり、お気に入りの一杯だった。
「遼さんたちは飲まないの?」
「このあと仕事だしね、雅哉には今度ご馳走するよ」
遼さんと雅哉くんはミネラルウォーター、私と麻衣ちゃんはカクテルを手にすると、遼さんの乾杯の合図とともにグラスを交わし合った。
グラスが当たる小気味いい音が、胸に響く。
でもこれって……
「何の乾杯?」
「そうだなぁ……」
遼さんが悩む顔を浮かべると、雅哉くんが満面の笑みで言い放つ。
「そんなの決まってんじゃんっ! 遼兄と梓さんが、晴れて結ばれたことにっ!! でしょ?」
「この野郎……雅哉ーっ!!」
遼さんが大きな声で叫び拳を振り上げると、雅哉くんはあっという間に麻衣ちゃんの後ろに隠れてしまった。