ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
支度を始めてすぐ、約束の時間までに余裕があることに気づく。
「楽勝楽勝っ」なんて口から溢れるのに、私の心は私の身体を急かし続けた。
その結果が、これ……。
30分以上も早く到着なんて、普段の私からは想像できない。
男性とのお出かけに、舞い上がってるとか?
それとも、その相手が遼さんだからとか?
いやいやいやっ!! それはないでしょ。絶対にないっ!!
ちょっとばかし、緊張はしてるけど……。
余計な考えを飛ばすかのように頭をぶんぶん振っていると、いきなり耳元で声が
響いた。
「おもしろい顔」
息がかかるほど近い距離に、思わず首をすぼめる。
ゆっくりと振り向けば、いつもの爽やかな笑顔。しかしその笑顔を、右の口角を
上げて意味有りげな笑みに変えた。
「こんなに早く待ってるなんて、そんなに俺に会いたかった?」
「な、何言っちゃってるんですかっ!? た、た、たまたまですよっ!!」
また頭をぶんぶん振って、否定する。
「そんなに動揺してるのに? 梓、可愛いね」
ボっと音を立てて、顔に火が灯る。
「か、可愛くないですっ!!」
こんな真っ赤な顔して、説得力全くなし。動揺丸見え。
遼さんにからかわれてるって分かってるのに、何で動揺する、私っ!!
ありえないでしょ……。