ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
遼さんと言えば、何事もなかったような顔して、コーヒーなんか頼んじゃってる
し……。
目の前に座ってニコニコしてる遼さんを見ていたら、何だか悔しくなってきた。
ここは私も……。
「そういう遼さんだって、早いじゃないですか? 朝早くからメールしてくるし
遼さんの方こそ、私に早く……っ!?」
会いたかったんじゃないんですか? と最後まで言い終わる前に、左頬をおもい
っきり抓られてしまった。
思った以上に痛くて、声が出せない。
「梓。朝のメール、忘れてるとか言わないよね?」
「はひっ?(はいっ?)」
やっとの思いで、それだけ言葉にする。
朝のメール? 何? 何かあった?
頬が痛くて、何があったのか思い出せません。
涙目になりながら、小首をかしげて分かりませんとアピールする。
「はぁ……。敬語、禁止って言ったよね?」
あぁあぁ、そうでした……。
でもね、何でも急には変えられないでしょ? 急いては事を仕損じる……とか言
うじゃない。何事ものんびり、徐々に慣らしていくもんだと思うわけですよ。
でもこのままじゃ、ほっぺ、取れちゃいそうです……。
「ひよひゅへる……(気をつける……)」
小さな声で伝えると、抓っていた手が離され、今度はその手がいい子いい子と頭
を撫でた。
「分かればよろしい」
何だか子供扱いされてる気がして気に入らない。
左頬はズキズキと痛むし、謝ってほしいもんだわね。……と、口に出して言えな
い自分がもどかしい……。
何ともおもしろくなくて、痛む頬を摩りながら彼の顔を睨みつけた。
でもやっぱり何事もなかったような顔をして、運ばれてきたコーヒーを美味しそ
うに飲んでいる。
可笑しなやり取りしてる私たちを見て、店員さん笑ってるし。
もしかして遼さんって、隠れドSの俺様だったりしたりして……。