ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
自分で言った言葉に、虚しさを覚える。と言うより、今の自分の立場が、まだち
ゃんと理解できてないのかもしれない。一か月限定の彼女。おためしで付き合う
って、どうやって相手に向き合えばいいのか……。
「ねえ梓。自分には関係ないって、本当にそう思ってる? いくらおためしで
付き合うって言ったって、他に女がいたらそんな事言うわけないだろ」
呆れたのか、いつもの遼さんと違う口調に、悲しくなる。
もちろん、本気でそんなこと思ったわけじゃない。遼さんが、そんな中途半端な
ことをするとも思ってない。
ただ、遼さんがピンクのクマなんて持ってるから……。探ってるの? なんて、
聞いてくるから……。
でもそれは、遼さんが悪いわけじゃなくて、私の勝手な思いだ。
せっかく今から出掛けるというのに、こんなんじゃダメだ。
「ごめんなさい、遼さん」
付き合うって決めたのは自分だ。もう少し遼さんを信じて、素直になってみるの
も悪くない。目をじっと見つめて許しを請う。
「いや……。別に怒ってるわけじゃないんだ。俺の方こそ、ごめん」
ゆっくりと右手が動き、私の左頬をそっと包み込んだ。
綺麗なアーモンド型の瞳がゆっくり弧を描くと、頬に当てていた手を背中に回し
そっと抱きしめられた。
「もっと俺を信じて」
自分もそうしようと思っていた言葉を言われ、ただ黙って頷く。
土曜の朝の静かな街の中で、私の心臓だけがうるさく騒ぎ立てていた。