ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~


「はい、乗って」と、助手席のドアを開け、背中を押される。少し前に抱きしめ
られたからか、ほんの少し触れられただけでドキッとしてしまう。心を悟られな
いように抑え助手席へと座ると、フッと微笑んだ遼さんが静かにドアを閉めた。
後部座席に荷物を置くと運転席へと乗り込み、俯いている私の顔を覗き込んだ。

「梓、ちゃんと聞いて。前にも言ったけど、おためしだろうが何だろうが、俺と
 梓は恋人同士。言いたいことがあったら言う。聞きていことがあったら聞く。
 甘えたい時は甘える。頼りたい時は頼る。もちろん、俺もそうさせてもらうか
 ら。いい?」

「う、うん……」

そう答えたものの、遼さんは私なんかに甘えられたり頼られたりして、迷惑じゃ
ないのかなぁ。好きな人にされたら嬉しいだろうけど、相手は私だよ? こっち
こそ「いいの?」と聞きたいくらいだ。
また落ち込んでしまうようなことを一人で考えていると、今度は右頬を抓られて
しまう。

「りょふひゃん……(遼さん……)」

「おれが今言ったこと、ちゃんと聞いてた? 今、何考えてたの? ほらっ、言
 って」

それだけ言うと、抓るのをやめ、労るように擦った。
擦るくらいなら、最初から抓らなければいいのに……。なんて思いながらも、頬
に当たる彼の手を、感じられずにいられない。

「初々しい反応だな。やっぱり梓、可愛いね」

「か、可愛くないっ!!」

「そうやってムキになるところも可愛い。で、さっきは何考えてたの?」

そうだった。やっぱり言わす気なのね。
諦め小さくため息をつくと遼さんの方を向き、渋々口を開いた。

「私なんかが遼さんに甘えたり頼ったりして、迷惑じゃないかと……」

「私なんかって何? 俺は梓だから、ああ言ったんだけどな。だから迷惑じゃな
 くて嬉しい」

「そ、そうなんだ……」

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