ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
そりゃね、遅れてきたのは悪かったと思ってるよ。
でもさ、だからって、人が忘れたいと思っていることを、何で関係ないマスターに話すかなぁ……。
私の最大なる汚点。思い出すだけでも気分が悪い。
「枝里さぁ。あんたがマスターに変な話するから、あの悪夢のような出来事を思い出しちゃったじゃないっ」
「ごめん。思い出させるつもりじゃなかったんだけど、梓、まだあの時のこと引きずってるでしょ? 本当に一生ひとりで生きていくつもりなの?」
「つもりも何も、もう決定事項! もう彼氏なんて懲り懲り。男なんて所詮みんな同じでしょ。その点、お金は裏切らない。お金さえあれば、ひとりでも生きていけるっしょ」
4年前、意味の分からない別れを経験してから、26歳になる今の今まで、男性とお付き合いしたことは一度もない。
まだ26歳で、一生ひとりで生きていくなんて言うには、早いのかもしれない。一度振られたくらいで、世の中の男性が全部同じだと決めつけてしまうのは、どうなのかと言うことも分かっている。
でもね、今のところ仕事も順調だし(言い寄られるのは気に入らないけど)、信用できない男性のことで、時間を割かれるのはまっぴらごめんだ。自由奔放に生きていく方が楽でいい……。
「ねえ枝里。今日は枝里の誕生日を祝うために、飲みに来たんでしょ? もう、私のことはほっといて」
「それはそうだけどね……」
枝里は納得いかないような顔をして、首をすぼめる。
彼女とは高校時代からの付き合いで、もう10年になる。気心も知れていて、何でも話せる仲だ。だから当然4年前のことも知っていて、事あるごとに私のことを心配してくれるんだけど……。