ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「ふ~ん、そっか。その顔は、また何かあったんだな。今のお前は信頼してるし大して心配もしてないけどな。遼、彼女を変なことに巻き込むなよ」
「分かってる……」
苦虫を噛み潰したような顔をしてそう答える遼さんに、一抹の不安を覚える。
その反面、遼さんが心配でたまらない。
彼にも昔、私には言えない何かがあって、今でも苦しんでいる。それに気づいてしまった。
そっと遼さんの顔を覗きこむと、苦しそうに笑いながら私の頬に手を添えた。
「ごめん。梓が心配するようなことは、何もないから。大丈夫……」
私に向けて言ったその言葉が、まるで遼さん本人に言い聞かせているように聞こえてしまう。
私が何があったのかを聞いても、遼さんは答えてくれないだろう。
なら今は、遼さんの『大丈夫』という言葉を信用するしかない。
一ヶ月の、仮の彼女として……。
「うん、分かった……」
そんな私と遼さんの様子を見て、修さんが大笑いしながら立ち上がった。
「遼っ。お前、いい女を見つけたな。俺も肩の荷が下りた気分だ」
「修さん。その、女って言うのやめてくださいよ」
「いいだろう。女は女だっ」
不穏な空気が漂っていた室内が、一気に平穏さを取り戻す。
でも、いい女って……。
修さんなりに、気を使って言ってくれてる言葉なんだろうけど、言われてるこっちはこっ恥ずかしくて仕方がない。
熱くなった顔をパタパタと扇いでいると、遼さんが肩を寄せる。
「いい女だって」
小声で何かを含み、意地悪に囁く。
「バ、バカっ!!」
そう怒りながらも、心な中ではいつもの遼さんに戻ったことにホッとしていた。