ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
枝里には二年前から付き合っている恵介くんという彼氏がいる。実は、結婚も近いんじゃないかと、密かに思っていたりした。
そして26にもなれば枝里だけに限らず、結婚したり、はたまた出産したりする友達も増えてきてるからなぁ……。
きっとそれも、枝里が私を心配するひとつのきっかけになっているんだろう。
でも、それはそれ、これはこれ。
人それぞれ考え方は違うわけで……。
マスターが、いつも私が一番初めに飲む“レディー・ジョーカー”をシェークし始める。慣れた手つきで4~5回振るとトップをはずし、目の前に置かれている
グラスに注いだ。
いつものことだが、その流れるような動きに目を奪われてしまう。
「どうぞ」
声を掛けられると、グラスを手にする。
「美味しい……」
そしていつものことだが、そう口にした。
でも今日は、いつもと何かが違った。
(うん?)
グラスから唇を離し顔を上げると、マスターと目が合い驚きで身体が跳ねた。
(私、見つめられてた? いや、単なる偶然だよね……)
慌てて目線をそらすと、クスっと笑われたような気がした。
(何だ、今の……)
もう一度マスターを見ると、もう違う作業に移っている。
(私の勘違いだな、たぶん……)
そう結論づけると、マスターに話しかけた。
「あっそうそう、マスター。枝里から聞いた話、早く忘れてね」
「う~ん……。努力はしてみるよ」
笑いながら、そう答える。
「努力はしてみるって。忘れてもらわないと、恥ずかし過ぎるんだけど」
最大の汚点だからね……。
「何も恥ずかしがることないでしょ。梓ちゃん、26だっけ? その歳で、誰も清い身体とは思ってないし、別れの一つや二つ誰だって経験してるだろうし」
「その言い方もどうかと思うけど……」
ガクンと項垂れた。