ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
俺の過去 遼side
兄貴が来たあの日から、昔の夢をよく見る……
俺は28年前、小野瀬家の次男として、この世に生を受けた。
両親、4歳違いの兄貴と、何不自由なく育っていった俺は小学生になった頃、親父が世間的にも有名な大企業の社長だということ知る。
《小野瀬建設》
大手建設総合会社。
全国の商業施設や大学病院。有名美術館に高層オフィスビル。その施工実績は多岐に渡り、同業他社と比べて群を抜いていた。
技術や開発方面においても、今では国内トップクラスの会社だ。
それまで優しかった親父もこの頃になると、期待感からか日に日に厳しくなっていった。
一週間のうち、ゆっくりできる日は一日あればいいほう。習い事と家庭教師との勉強で、毎日くたくただった。
それでも親父に期待されてると思えば、弱音を吐かず頑張ることが出来た。
そして俺が中学生になると、その期待が言葉となって俺に伝えられる。
『遼。お父さんは、お前にこの会社を継いで欲しいと思っている』
期待はされていても、兄貴が継ぐものだと思っていた。長男の兄貴じゃなく、俺にと言ってくれたことが嬉しかった。
高校生だった兄貴は、いつも優しくて人は良かったが、欲もなく、また野心家でもなかった。
親父が俺に会社を継がせると言ったことを知った時も、ニコニコ笑って「遼、良かったな。頑張って」と言ったくらいだ。
親父は、そういう態度しかできない兄貴が気に入らなかったらしい。