ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

それからの俺は、一心不乱に脇目もふらず勉強に集中していった。一つでも多くのことを学んでおかないと、あの会社は継げない。
そう思わずにはいられないほど、小野瀬建設はどんどん大きくなっていった。

大学に入ると横のつながりも必要と、勉強だけでなく人付き合いも積極的に行なっていった。
親父と一緒に、経済界のパーティーや講演会などにも顔を出すようにした。
職種は違えど、大手企業の長たちとも顔なじみになっていった。
しかしそこで親父に放たれた言葉が、俺の立場を変えてしまう。

『小野瀬社長。先日偶然、長男の暁(あきら)君に会いましてね。実に誠実な青年になっておられた。彼がいれば、この会社も安泰だ。一緒に仕事が出来る日を楽しみにしてますよ。あぁ遼君。君もお兄さんの力になってあげるといい』

次の日親父は、兄貴を次期社長にすることに決め、兄貴もそれを承諾した。
そしてその日を境に、俺には一切構わなくなった。何もしていないのに、勝手に見切られたんだ。
俺は、今まで努力してきたことが一瞬で崩れ去ったことに、絶望感でいっぱいだった。
母親には引き止められたが、身一つで家を出ると、死んだじいさんが俺名義で残してくれた洋館に転がり込んだ。
大学も辞め特に働きもせず、貯めていた貯金を崩しながら、のらりくらりと暮らしていた。
自暴自棄になっていた俺は欲望を満たすため、後腐れの無さそうな女を取っ替え引っ替え抱いた。
俺は、日に日に荒んでいった。


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