ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
車から下りると、近づいてきた梓の手を握る。彼女の手がぴくっと反応したことにも構わず、足早に建物の中に入った。
一番奥のドアまで行き、中にいるであろう修さんに声をかけると、「おうっ」と一言だけ帰ってくる。
その重たい声に、一瞬で体に緊張が走る。
ドアを開けると、後ろ姿の修さんがいた。
次の言葉を発しようと思った時、梓が小さな声であいさつをした。修さんの大きな体が動きを見せる。
体中に、嫌な汗が流れ出す。
ゆっくり立ち上がり振り返った修さんの顔には、安堵の笑みが広がっていた。
「遼、おはようさん。可愛い女、連れてきたな」
可愛いには間違いないが、女って……。
それに、これはどういう意味の笑顔だ?
呆れたり怒ったりしているような顔じゃないのは分かるが、素直に受けとっていいものかどうか迷う。
それでも何とか梓を彼女と紹介し、梓も自己紹介を終えると、修さんの笑みが深くなった。
そして梓に修さんを紹介する時……。
この時だけ「学生時代の先輩」と嘘をついてしまう。
先輩には違いないし、21の頃の話だからまんざら嘘でもないが、意味が違う。
修さんを見てみれば、俺の嘘を理解してくれたのか、苦笑する俺に合わせて笑ってくれた。