ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
あの頃、俺のしていたことは許される?
もう一生、彼女は作らない。結婚する資格もないと思っていた。
彼女、春原梓が俺の眼の前に現れるまでは……。
初めて、本当に心から手に入れたいと思った女性。
本気になればなるほど、俺にはそれができなかった。
慎重になりすぎて何も答えを出せず、先に進めないまま一年が経った。
まだ自信も持てず先延ばしにしていた時に、突然兄貴が現れた。
『遼。戻ってきてくれないか?』
親父からの伝言も聞かされた。
『将来を約束した女性がいないなら一ヶ月後、許嫁と結婚し、会社の一員となって小野瀬建設の力になってほしい』
勝手な話だ。もう俺には関係ないことだ。
でも、あの親父のこと。あの時と同じように、人の話など聞かず、事を進めていってしまうに違いない。
グズグズしている暇はなかった。
すぐにでも、彼女に思いを伝えて……。
そう思った矢先、彼女の『一生結婚しない』という決心を知ってしまった俺は、
“罠”をかけることを思いついた。
その時から、脳裏に修さんの顔がちらついた。
彼の許しを得ることが、一歩を踏み出すために何よりも必要だった。
だからか、さっきの彼の笑顔を見て、気持ちが少し軽くなる。
ただ親父の話が出た時は、さすがにマズいと動揺からか、つい大きな声を出してしまった。
何かに感づいたのか、梓が心配そうな顔で俺を覗き込んだ。
「ごめん。梓が心配するようなことは、何もないから。大丈夫……」
そう、大丈夫。
梓を安心させるために言った言葉が、今の俺にも一番必要な言葉だった。