ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
その姿を見て苦笑する。
「まあまあ、そう気を落とさずに」
誰がそうさせたか、分かって言ってんのかっ!
なんて、心の中で言ってみる。
「梓ちゃんも来たことだし、乾杯でもする?」
そう言うと、枝里と私に“クローバー・クラブ”を用意してくれた。
ピンクの色が鮮やかなカクテル。名前のとおり、幸せな気分に誘われる。それを手にすると、枝里の方を向く。
「枝里、誕生日おめでとう。乾杯っ!」
「「かんぱーいっ!!」」
私の掛け声に続いて、マスターや雅哉くん、バイトくんたちも一緒にお祝いしてくれた。
「ありがとうっ」
枝里も嬉しそうに、カクテルを持った手を高く上げた。
その後も美味しいお酒や料理を堪能しながら盛り上がっていると、枝里が時間を気にし始めたのに気づく。
「枝里、どうかした?」
「あ……うん。梓、ごめんっ! そろそろ帰ってもいいかなぁ……」
「ええっ! まだ9時回ったとこだよ?」
「……恵介が、待ってるんだ」
枝里がちょっと照れながら微笑む。
そうだよね。彼氏がいる女性なら、誕生日は好きな人と一緒に過ごしたいに決まってる。どうしてそれに気づいてあげれないかなぁ……私って。
「ごめん、枝里。もっと早くに気づくべきだった」
「そんな……。言わなかった私も悪いんだし、気にしないで。また近いうちに飲もうよ。ねっ」
可愛くウインクしてみせると、ささっと荷物をまとめる。
耳元で「今日はありがと」と囁くと、軽く手を振り、笑顔で帰っていった。