ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

「梓から離れたくないけど、そろそろ次の目的地に行かないとな」

名残惜しそうに身体を離す遼さんの顔を、振り向き見る。
「うん?」と聞くその素振りに、「なんでもない」と笑顔で答えた。
『私も離れたくなかった』そう言えば、遼さんはどんな反応をしたのだろう。
とうとう“本気になっちゃダメ”その呪文が、効かなくなってしまったみたいだ。


「次に行くのは、ガラス工房。新しいカクテルグラス頼んであるんだ」

「カクテルグラス?」

「そう。うちの店オリジナルのをと思ってさ。ちょっとデザインしてみたんだ」

「遼さんが? すごいっ!! 早く見たいなぁ~」

私の言葉に、遼さんが嬉しそうに微笑む。
今日はいろんな遼さんの笑顔が見れて、ちょっと得した気分。あの、からかったり意地悪なことを言う時の笑顔はどうかと思うけど……。

さっき入ったラーメン屋さんの話をしながら、ガラス工房までの道のりを過ごす。穏やかな太陽の光が差し込む車内は、いつのまにかとても居心地の良い空間になっていた。

「ほらっ、あそこに見えるログハウス。そこが叔父がやってるガラス工房だよ」

「えっ!? 叔父って……」

「うん。俺の親父の弟だけど」

いきなりの身内発言に動揺を隠し切れない。
まさか、叔父さんにも私を紹介するつもりじゃなんだろうか……。いやいや、それはマズいでしょ。叔父さんに嘘はよくない。

「私のこと、叔父さんにも紹介するつもり?」

遼さんの左腕を掴むと、焦る気持ちを抑えきれずに必死に聞いた。

「そうだけど……」

「ちょ、ちょっと待ってっ!! 百歩譲って修さんはいいとしても、叔父さんには“彼女”って言うのは止めてね」

“仲の良いお客さん”とか“ガラス工芸に興味のある友人”とか、他に言いようはたくさんある。
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