ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
まるでプレゼントをねだる子供のように、願いが聞き入れてもらえるよう懇願の眼差しを送る。
「う~ん、無理……かなぁ。実はもう昨晩、彼女も一緒に連れて行くって連絡しちゃったんだよね」
懇願の眼差し、無駄に終わりました。
そして今度はその目を怒りの眼差しに変える。
「叔父さんにそんな事言って、後でどうなっても責任とらないからっ」
「それは大丈夫。ちゃんと考えてる」
工房の前の駐車スペースに車を停めると、そう言って私の手を握る。
考えてるって何を? 言い訳? それとも謝りの言葉?
どっちにしろ、叔父さんを騙しているみたいで申し訳ない。
「梓。悪いことばかり考えてないで、いい方に考えてみるってのはどう?」
「いい方?」
そんな事簡単に言わないで……。
私の心は、もう遼さんに惹かれてしまっている。悪い結果になってしまうのが分かってるのに、いい方になんて考えられない。
私たちがただの友達だったら望みがあることも、おためしで一ヶ月の契約恋愛では、どう転んでも未来はない。
「まぁ、今の状況じゃ無理もないか。梓、ごめんね」
何で謝るんだろう。契約に乗っかったのは私の方なのに……。
遼さんの訳の分からない言葉に首を傾げると、握ってる手を両手で包み込んだ。
「訳が分からないって顔、してる。可愛い」
「りょ、遼さんっ!!」
「怒らないの。いい? 今は訳が分からなくても、俺のことを信じて」
そんなこと言われても……。どう答えていいか分からず、目を泳がせてしまう。
「梓っ。俺の目をちゃんと見てっ!!」
強い口調で言われて、身体が一瞬固まる。でもその言葉の中に何かを感じた。
“本気”
それが何を意味するのかは分からないけれど、頭の中にその言葉が浮かぶ。