ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

信じる……かぁ。今は、その言葉を信じてみるのもいいかも。
もしかしたら悪いことばかりじゃないかもしれないし……。
包み込まれている手をスルっと抜くと、今度は私が遼さんの手を包む。

「叔父さんには申し訳ないけど、遼さんを信じる。だって今は本当の彼女だからね」

そう言い少し頑張って微笑むと、遼さんが包み込まれてる手からそっと右手を出し私の頬を撫でた。そのままその手を頭の後ろに回したかと思うと、一気に遼さんの顔が近づく。
えっ!? っと思う間もなく、温かい感触が唇に伝わる。
何が起こってるのか思考回路が停止してしまい、考えられない。
それが遼さんにキスされてると気づくのに、時間が掛かってしまった。

ただ触れるだけの、優しいキス。

その甘い口づけに、自然と目を閉じた。
ゆっくりと唇が離れると、そっと抱きしめられる。

「ごめん、止められなかった……」

切なそうに言う遼さんの声を、抱きしめられている胸の中で聞く。
どうして遼さんが切なそうなの? 
私だって切ない……。本当はキスされて嬉しいのに、すごく幸せなのに、心の奥では“契約”の二文字が私を苦しめる。

「ううん、いいの……」

遼さんの腕に抱かれたまま、そう言うのが精一杯だった。

少し気持ちが落ち着くと、遼さんから身体を離す。
叔父さんの工房の前だ。いつまでも抱き合ってるわけにはいかない。
照れくさくて顔を見れないまま、バッグを掴む。

「遼さん、時間は大丈夫ですか?」

「何で今さら敬語なの?」

可笑しそうに笑う遼さんの腕を、バシッと叩く。

「イテっ!! 梓ってすぐ手が出る派?」

「手も足も口も出る派っ!!」

憎まれ口をたたくと、先に車から下りた。
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