ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「梓っ!!」と呼ぶ声も無視して工房の前まで歩いて行くと、どこからか視線を感じる。その視線を探してキョロキョロしていると、目の前ののドアが音を立てながら開いた。
「いらっしゃい。君が遼の恋人かな?」
声も佇まいもとても雰囲気のよい、素敵な紳士が立っていた。
「は、はじめまして。春原梓と申します。今日は突然お邪魔してしまい、すみません」
深々と頭を下げると、大きな声で笑われてしまった。
私、何か変なこと言ったかなぁ……。
心配になり恐る恐る顔を上げると、いつの間にか来ていた遼さんも一緒に笑っている。これにはさすがの私も頭にきた。
「遼さんっ、笑いすぎっ!!」
「だって梓、いつもと違ってしおらしい態度だからさ」
それじゃあ、いつもの私はガサツみたいじゃないっ!
遼さんを睨みつけると、ポンポンと頭を撫でた。ただそれだけのことで、私は顎の裏を撫でられた子猫のように大人しくなってしまう。
遼さんの何かにハマってしまってる気がするのは、私だけ?
「遼。いい加減にしないと嫌われるぞ」
「そうか。それは困るな」
その言い方、本気じゃないでしょっ!!
遼さんの隣に立ち、ドンッと身体をぶつける。
「ははっ!! こんなところで立ち話も何だし、中に入れ」
そう促されて、遼さんの後について部屋の中へと入る。
一歩足を踏み入れたそこは、おとぎの国へ来たのかと錯覚するくらい別世界だった。
棚には所狭しとガラス工芸が立ち並び、壁はキレイなステンドグラス風の作品が飾られている。吊り下げられている、まるでシャンデリアのようなガラス細工は太陽の光を浴びてキラキラと光りを放っていた。
その光景に目を奪われてしまい、口を開けたまま立ち尽くしてしまう。