ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「梓、口開けっ放し」
遼さんにそう言われるまで、キラキラする光に心まで奪われてしまっていた。
「遼さん、ここすごく素敵。夢の世界みたい」
「気に入った? 男の俺でも、ここは居心地の良い場所なんだ」
そう言いながら私の肩を抱くと、窓際にある歓談スペースらしき場所に連れて行く。
「ここからの景色も素敵なんだけど」
閉めたあったロールカーテンを一瞬で開くと、目の前には光り輝く湖が広がっていた。入口側からは、木々が生い茂っていて分からなかった。
部屋に入ってからまだ十分ほど。たったそれだけ時間で二度も心を奪われてしまうとは……。
「どうしよう……。ずっとここで暮らしたい気分なんだけど」
「嬉しいこと言ってくれるね。一緒に暮らすか? 俺は全然構わないけどな」
キッチンからお茶を運びながら、素敵な叔父様が私にウインクをして見せた。
そんなお茶目なことをする叔父様も素敵! こころの中でそっと呟く。
「誠さんっ、余計なこと言うなよ。梓が本気にしたらマズいだろ」
「俺もまだまだ現役だぞ。相手がお前でも負ける気がしないな」
これは叔父と甥っ子の会話でしょうか?
まるで親友と話しているような感覚に少し違和感を感じながらも、こういう関係も素敵だなと羨ましくも思う。
「えっと、梓に紹介がまだだったね。こちらが俺の叔父で、一番の理解者。小野瀬誠。55歳」
「おいっ遼!! 歳を言うなんて卑怯じゃないかっ」
「えぇっ!? ほんとに55歳なんですか? 全く見えないんですけど……」
うちの父と同い年には全く見えないんですけど……。
55歳といえば、中年太り真っ盛り。お腹なんか狸みたいにポンポンだし、お酒の飲み過ぎで顔は浮腫んでるし。髪だって薄くなり始めている。
それに比べて誠さんときたら……。
暑い作業場で仕事をしてるせいか、ガラス工芸は思ったより力仕事で毎日体力を使っているからか、スリムなボディーに焼けた肌。髪は黒々としていてスッキリと切り揃えられていた。
この歳でジーパンをこれだけ格好良く着こなせる人は、そうそういないだろう。