ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「暑いっ!!」
作業場に入ると、思っていたよりも室内の温度が高いことに驚く。テレビでは観たことがあっても、実際にこういう現場に入るのは初めてのこと。見るもの全部が新鮮だ。
「夏場はもっと暑いからね。ほんと、体力勝負だよ」
誠さんはそう言うと、長い竿を持ちだした。
「あそこにあるのがガラスの溶解炉。温度は約1200~1400℃ってとこかな」
ガラスを溶かすには10時間前後かかり、一度炉に火を入れたらガラスが溶けた状態を維持するために、何ヶ月もの間燃やし続けないといけないらしい。
遼さんが得意げに、そう教えてくれた。
さすがに商品作りというわけにはいかないが、遼さんも何度かここで手伝いをしたことがあるそうだ。
昔の話を懐かしそうに話す遼さんの顔に、見惚れてしまう。
「ボーっとしてると危ないぞ」
遼さんに注意を受けて我に返る。
見惚れてたこと、バレてない?
ドキッとした胸を押さえながら、溶解炉に近づいた。
「ここの中を覗いてごらん。ガラスが溶けてドロドロの水飴みたいになってるでしょ。ここにこの竿を入れてガラス種を巻き取り成形するんだ」
二人して誠さんの説明に聞き入る。
「そして、これに色を付けたいなら『内被せ(うちぎせ)』か『外被せ(そとぎせ)』という技法を使う……と、今日の所はこの辺まで。遼、時間ないんだよな?」
「4時には店に戻らないといけないからなぁ」
時計を見ると、もうすぐ二時になろうとしていた。
「これが頼まれてたカクテルグラス。ステム(脚)の部分に遼のデザインした飾りガラスを施してみた。こんな感じでいいのか?」
「想像してた以上にいいよ。気に入った。梓はどう?」
「うん、素敵。これからの季節にピッタリだと思う。手にしてもいい?」
「どうぞ」
遼さんに了解を得ると、誠さんから受け取る。
カクテルグラスの細いステム。手に持つところの邪魔にならない下の部分に花と蔦を思わせる装飾がある。