ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

「特に女性は喜びそう。遼さんのお店は女性客も多いし、いいアイデアだね」

私の言葉に一瞬驚いたような顔を見せた。私が「うん?」と首を傾げると、何でもなかったかのように首を振る。

「遼。お前にはもったいないくらいいい子じゃないか。大丈夫なんだろうな?」

もったいないくらいいい子? それって私のこと?
さっき修さんのところでも感じた違和感。それと全く同じ感覚が、今起こっていた。
修さんも誠さんも、私たちがおためしで付き合っていることを知らない。だから本当の彼女だと思うことはありだと思うが、二人ともいい子を見つけたなとか、大丈夫かと心配そうな言葉を残すのは何故?
何に対しての“大丈夫”なんだろう……。

「ああ……。梓のことは大丈夫。ただ親父がちょっと……」

私がいるからか、それ先は口籠る。
やっぱり遼さんのお父さんが関係してるみたい……。
何となくだけど、私たちがおためしで付き合ってることとお父さんのこと、関係があるような気がしてきた。
本当は「お父さんがどうしたの?」と聞きたい。そうすれば、いろんなことの辻褄が合うと思うから……。
でも遼さんが口籠るくらいだ。今聞いたって、教えてくれるとは到底思えない。
今日は遼さんを信じると決めたんだ。ここで口を挟むのは止めておこう。

持っていたカクテルグラスを机に置き、離れていた手を自分から繋ぐ。
私のまさかの行動に身体を反応させた遼さん。その姿が面白くてクスっと笑うと、遼さんは照れたように頭を掻いた。

「梓さんがいれば大丈夫か……。まぁ、また何かあったらいつでも来い。相談くらいにならのってやる。梓さんも今度はゆっくりおいで。一人できてくれて構わないから」

そう言って、またウインクをした。




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